語学書と言えないかもしれませんが、今回はオルハン・パムク著の「わたしの名は『紅』」です。

もともと文学好きなので色々な国の文学にふれてきましたが、この本の物語の独自性にあまりにも感動してしまい私はトルコ語を習うことにしました。一人称の話者の際限の無い移り変わりや神秘主義的な文章はとても新鮮で、全く新しい文学の可能性を示しています。

またそこで大きく私が興味をもったのは訳者の和久井 路子さんです。トルコ語は残念ながら英語などと比較するとマイナー外国語で、十分に参考書や辞書もない状況です。しかも英語で書かれた辞書すら良いものはなかなか無いので、翻訳が極めて難しい言語です。それに加えてこのオルハン・パムクの、ある意味では奇天烈な文章ですから翻訳の困難さはすさまじいもののはずです。

こんな芸当をやってのけるには相当な努力や苦労があっただろうと思いますし、ありきたりの人生ではなかったでしょう。そういった事を考えながら外国文学を読むというのも外国語学習中毒者の性かもしれませんが、とにかく色々な意味で面白いです。

上級者向けの参考書も、辞書も無い、もちろん電子辞書もないこういったトルコ語事情のなかでも、こんな難解な文学を日本生まれ日本育ちの人が翻訳できるというのは私に大きな感動と夢を与えてくれました。