池谷先生は研究者としてもご活躍で、そういった背景もあってか、こういった本にありがちなエセ科学要素が一切ありません。当時の最新の研究なども踏まえて、誤解や誤情報に気をつけて、わかりやすく解説されています。
「マイナスイオン」、「ブルーベリーは目に良い」、「水素水」なんてものもありましたが、こういった非科学的なことは絶対に書かれていません。それだけでもお勧めできるくらいです。
記憶力を強くするための方法、というのも書かれていますが、記憶というものそのものの説明にもだいぶページ数が割かれています。記憶術のようなことがほとんど書かれていないのがとても好印象です。というのも記憶術と言われるものはそれぞれ問題もありますし、本当にこういったテクニックが必須というのはごく限られた状況です。
例えば円周率のようなランダムで論理付けで覚えられない、長い情報の記憶くらいです。ほかの事は逆に、愚直に音読やカード、アプリを使って記憶していったほうが、後々の記憶の使い勝手がよくなります。
記憶術関連の情報がのっている本は胡散臭い情報が多いですし、場合による使い分けといった細かいところまで言及されていないのでとても使いづらいです。例えばものを覚えるときに、その覚えたい物事に関連付けてストーリーを作り、そのストーリーにそって思い返していけば思い出していける、といったものです。円周率の記憶なんかで使っている人が多い手法ですね。
ただし記憶術なんていわれているもののほとんどは語学と相性が悪く、例えば、英語の例文記憶に応用しようとすると、あまり役に立ちません。語呂合わせなんかもそうですが、「これは~だから~だったな」、という感じで、ただ思い出すだけでも、毎回記憶の変換作業のようなものが必要になります。「コックさんだから593年だな」という感じで即座に593年がでてくるわけではなくて、「コックさん→593」という変換作業をしなくてはいけません。
単語や例文、熟語をこういった手法で覚えてしまうと、とくにリスニングで悲惨なことになって、その変換作業をしている間にどんどん音声ファイルは進んでいき、作業をしている間はろくに聞けていなくて追いついていけません。
DUO3.0は本当に優れた参考書で、ほとんどケチをつけられないのですが、DUOで単語や熟語を覚えるとこういった問題に直面します。「in a rage ってなんだっけ?」→「mama yelled in a rageだったから、怒ってって意味だったな」という感じで、思い出すのに変に時間がかかることがあり、試験時間が足りなくなったりリスニングでおいていかれてしまいます。
池谷先生のこの本に書かれているのは小手先のテクニックではなくて、根本的な話がほとんどです。根本的な力というのはなかなか伸びませんし、成長に根気と時間がかかります。しかし長い目で見れば、そういった実力が大きな結果につながってきます。こういったことや読みやすさ、情報もとの正確さなども含めて本当に良い本だと思います。
そして私はこの本を読んでからスマドラ(スマートドラッグ)やサプリの世界に旅立ちましたが、そのことに関してはまたほかのところで。個人的にスマドラはほとんど効果を感じませんし、ぜんぜんお勧めできるようなものではありませんが、そのうち書いてみます。