伊吹 武彦さんの『フランス語解釈法』は希有な本です。英語関連の本は日本には大量にありますがフランス語関連の本は少ないのが現状です。そんな中でこの本は、英語でもなかなか見られないような、文学者がどのように原著を解釈し日本語訳を書くのかを教えてくれます。

文学的な内容が中心でフランス語の試験や文法書にはでてこないような表現が多いのが特徴で、わたし達が普段学んでいる外国語というのがいかに体系的で文学から遠く離れたものかを痛感させてくれます。

アンドレ・ジッドの例文が多く、非常に難解な文章ばかりなので「ジッドは原文で読みたくない…」とかつての私の場合、ジッドを恐れるきっかけにもなりました。もっともそれだけ表現が豊かなぶん原文で読むべきなのですが。

フランス文学専攻の大学院入試対策としても難しすぎるような内容ですし、この本を読んで活用出来る人は日本には多くはないでしょう。それでも文学者の翻訳技術を詳細に見せてくれるこの『フランス語解釈法』は文学を翻訳する者、特にフランス文学を学ぶ者にとってはこれ以上ないほどに頼れるものです。

様々な文例が項目別に並べられているので読みやすく、内容は難しいですが出来る限り理解しやすいようにと書かれているのがとても素晴らしいです。

昨今では文学研究を専門にする人はどんどん減っていて、語学学習をする人もビジネスや実用のためという人が増えています。それでも文学はその言語の行き着く形の一つですし、深くその社会や言語を学ぶ為にこの上なく有効です。

今後は文学の需要は減り、外国語の文学の難解な文章に取り組む人もますます少なくなっていくでしょうが、人々がこういった難しい挑戦を諦めず、楽な崩壊の道を選択しないと思いたいです。伊吹さんのこういった本が読まれ続ける社会を日本が維持できることを願っています。